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コラム

更新日:2009.5.14

裁判員になるあなたへ

くしくも裁判員制度がはじまる1ヶ月前(2009年4月21日)、いわゆる和歌山カレー事件についての死刑判決が確定としたというニュースが世間をにぎわせました。被告人の林真須美さんと犯行との直接的な証拠はもちろん、彼女の自白さえもないままに、情況証拠のみ(そもそも犯罪事実を認定するためには、犯行にかんする自白等の直接的な証拠とそれを補強する間接的な証拠が必要であると考えられてきました)をもってして国家は、一人の人間の命を奪う決断をしたのです。

この事件に対する世論は、ほぼ一様に真須美さんを犯人視するものでした。自分の家族や大切な人がその被害に遭ったときのことを思い浮かべて彼女を憤りの対象としたのです。しかし、何の罪もない自分の家族や大切な人が逮捕され、勾留され、裁判を受けて死刑判決を受けるということは想像されることすらほとんどありません。殺人等の罪に問われているこの事件は、裁判員裁判下においてもむろんその対象となります。つまり、裁判員になるあなたが参加する可能性のある事件なのです。各種メディアによる報道をとおして、彼女を憤りの対象とし、社会的連帯を強めた<わたしたち>は、冷静に証拠だけをみて裁判にのぞむことができるのでしょうか。

このような事件の裁判では、検察官が彼女を有罪にするための立論をし、弁護人は彼女を無罪にするための弁論をすることが想定されます。裁判員になったあなたには、両当事者の語る事件はまったく違ったものに感じられるかもしれません。その攻防を目の当たりにして、あなたの心のなかに悩みが生じたときに、裁判員裁判は大きな意味をもつことになると考えられています。

2009年5月21日、裁判員制度がはじまるこの歴史的な日に、『被告人の事情/弁護人の主張―裁判員になるあなたへ』は刊行されました。本書は、日々、「犯人」といわれる人たちと向き合い弁護活動に取り組む刑事弁護人の視点から、メディアによって語られる「悪い人」像とは少し違った被告人の姿を紹介し、刑事法研究者・元裁判官がそれぞれ事件の見方を提示しています。裁判員制度そのものの解説やその是非、どうすれば裁判員にならなくて済むかなどといったことに関心が集中する昨今、刑事裁判の本来の主人公である被告人(被疑者)に焦点をあてた本書を手に、被告人の事情に目を向け、弁護人の主張に耳を傾けてみてはいかがでしょうか。


被告人の事情/弁護人の主張―裁判員になるあなたへ

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