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コラム

更新日:2008.5.9

「国際人権」ってなに? という人へ

「国際人権」という言葉を耳にしたことがありますか。第二次世界大戦までは一般に、国家対個人の関係で人権が論じられてきたため、いわば「国内人権」でこと足りていました。しかし、平和と人権を保障するために設立された国連では世界人権宣言をはじめ普遍的な人権文書が採択され、現在では女性や子ども、障害者、先住民などの権利保障のために多数の個別的な条約が作成されています。各国がこうした条約を批准し、国内法を整備することや、国際機関による直接の支援を受けることで人権保護活動を実施しています。
国際人権入門』では、国際機関での実務経験の豊富な横田洋三氏に編者を担っていただき、国際人権がどのようなプロセスで成立したのか、現実の国際社会においていかなる意義と課題を有するのかを多くの事例を交えて紹介しています。たとえば、サッカーの国際試合で使用されるボールが発展途上国の子どもたちの手によって縫われたものであることが批判されたように、貧困や紛争で生きていくことすら困難な子どもは、世界にたくさんいます。このような子どもたちの置かれた状況をふまえ彼らの権利を保護するために、子どもの権利条約が作成されました。同条約のもとでは、子どもの「最善の利益」を確保する目標に向けて締約国の義務を定め、締約国の政府が子どもの権利を実現するためにとった措置を同条約の委員会に報告させるしくみになっています。
国際人権に関する類書はすでに刊行されていますが、法制度や手続きの説明が中心で、一般市民や学生にとってはなじみにくい点があったかもしれません。本書では、「国内人権」からスタートした人権がなぜ「国際人権」として展開しているのかを歴史的に位置づけたうえで、「国際人権」の法制度や手続きだけでなく個別の権利の実情も取り上げています。また、既存の主体(アクター)である国家以外に個人、NGO、国際機関、自治体などの関与を通じて権利が実現される過程を初学者にも理解できるよう工夫しています。さらに、市民の日常生活と国際人権とのつながりを意識し、国際社会の人権基準に照らして国内の人権状況を見直すだけでなく、今後はより主体的に国際人権問題の根っこにある、貧困や紛争などの構造的な問題に取り組む課題を提示しています。
今日、人権の国際的広がりに目を奪われるだけでなく、人権の歴史や実情に立ち返ってとらえることが重要になってきています。本書と同様の視点で日本国憲法の人権を中心に概説したのが、横藤田誠・中坂恵美子著『人権入門−憲法/人権/マイノリティ』です。併せてご一読をお勧めします。


国際人権入門

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