■第6講 宿題

1.解答例
3回生に30分で書いてもらった答案を紹介しましょう。修正箇所ゼロです。かなり自習していることがわかります。書き方には若干の混乱がみられますが、30分で書いたものとしてみると、かなり優秀です。現段階でこのような答案が書けなくともおちこまないでください。おちこむのではなく、「がんばればここまで書けるようになるのだ!」と知的興奮を味わってください。


1.本問は、少年法第22条の2に規定する、検察官関与を認めるか否かを問うものである。同規定によると殺人は検察官関与がなされうる範囲であるが、要件として「必要があると認めるとき」をあげている。そこでこれを法理念に照らし、どのような解釈・運用をすべきか検討する。
2.本規定の立法趣旨は「事実認定の適正化」である。検察官を関与させることで?@証拠の収集・吟味における多角的視点の確保、?A裁判官と少年の対峙状況の回避、?B少年審判における非行事実の認定手続への被害者、国民の申請の確保をはかろうというのである。
 しかし、本規定には立法事実が存在しないと思われる。立法過程において、草加事件が事実認定を争った事件としてあげられているが、実際は検察官ら捜査側が証拠の隠匿などを行った結果、かえって事件を混乱させたのである。従ってこれを立法事実とはいえない。
3.実務での運用をみると、平成13年4月から平成17年3月まで検察官関与決定があったのは72件にものぼり、その数の伸び率は高い。さらには非行事実につき否認をしていない事件も含まれており、一応立法事実としてあげられていた事件のような事実認定の争いの程度には全くおよばない事件にまで関与がある。
4.このような立法趣旨および運用の現状はどう評価されるべきだろうか。
 そもそも「事実認定の適正化」とは多義的である。
 (1) 第1に、少年審判手続きに検察官を関与させ公平さの外観をもたらすことをいう、との見解がある。しかしこの意味で作用するのは、被害者を含む国民に対してだが、結局のところ結論の正しさが注目されるであろうから、効果は期待できない。
 (2) 第2に、検察官を関与させて充実した審理を行うことをいう、との見解もあるが、この意味での事実認定は非行事実ありとの認定をする方向においてのみ作用する可能性が高い。
 (3) そこで、あるべき「事実認定の適正化」とは、少年法理念たる健全育成、憲法13条が要請するところの少年の成長発達権とその中核たる意見表明権、手続参加権の保障から理解すべきものである。
 この場合での審判のあり方は、意見表明権を保障させていることが必要であって、そのためには「少年が安心して自らの言葉で語れる」場所でなければならない。つまり「事実認定の適正化」とは、少年と裁判官との適切なコミュニケーションにより実現される、正確な事実認定を行うことだ。
5.「事実認定の適正化」を以上のように解すと、検察官関与決定を広く認めようとする立場が強調し主張する、「証拠の多角的収集・吟味」や「対峙状況の回避」は、少年と裁判官が向き合った審理をすることを断つものであるから「必要と認めるとき」を解釈する際に考慮すべきでない。
 少年と裁判官はまず向き合わなければならないのである。そして少年との適切なコミュニケーションをとる努力をするのだ。しかし万が一、それが全く不能であったとき、はじめて他者の協力が必要とされるのである。
 つまり、「必要があると認められるとき」とは、裁判官や付添人の努力にもかかわらず、少年とのコミュニケーションが不全に陥る高度の蓋然性があり、このままでは少年の意見表明権を保障しながら事実認定を行うことが困難だという状況がある場合をいう。しかしながら、このような状況は例外的であろうから、安易に検察官を関与させるべきでなく、まず裁判官は一件記録を検討し構成した物語はひとまずおいておき、少年の言葉をきく努力をすべきで、そのような運用がなされなければならないのだ。
6.以上のことを本問にあてはめる。少年は現在のところ自白をしているが突如否認に転じる可能性が全くないとはいえない、と検察官は意見を述べている。しかし、突如否認に転じる可能性は抽象的なものでしかなく、また、否認に転じた場合も、裁判官はまず少年の話しを聴くべきであり、裁判官と少年のコミュニケーションが不全に陥る高度の蓋然性は、現在の段階で認めることができない。以上のことから、本問の場合においては、検察官関与決定を出してはならない。
以上