1.自白調書の信用性の有無を決定する法律に刑訴法318条がある。この刑訴法318条は「裁判官の自由な判断による」と明記している。そこで、刑訴法318条にある「自由」の意味、そして本件における裁判所がその意味に従って証拠を評価しているかが問題となる。 2.(1) まず前提とされなければならないのは、「自由」とは、好き勝手に証拠を評価してよいという意味ではないことである。318条が「自由」と規定しているのは、有罪とするために必要な証拠とその証明力を法律で定める、いわゆる法定証拠主義を採用しないことを宣言したものにすぎないからである(自由心証主義)。冤罪防止という観点からは、当然、自由心証主義のもとでも合理的な証拠評価方法がとられなければならない。 (2) それでは、どのような証拠評価方法が合理的なものといえるのだろうか。この点、調書自体の叙述の詳細性、迫真性等を重視する、いわゆる直感的・主観的証拠評価方法を妥当とする説がある。しかし、調書という証拠は、供述者の供述をありのままに記したものではなく、取調官の作文にすぎない。調書の内容が詳細で、迫真的であったとしても、それは取調官の作文能力がとりわけ優れていたことを示すものにすぎず、自白内容の真実性を直接示すものとは言い難い。したがって、このような証拠評価方法によると、調書の中に虚偽の供述が含まれていたとしてもそれが見過ごされ、冤罪を引き起こす可能性が大いにあり、妥当でない。 (3) 前述のような調書の性質に鑑みると、調書それ自体のみから判断するのではなく、他の客観的証拠との整合性や、実際の捜査過程と調書を照らし合わせ、秘密の暴露の有無等を検討する、いわゆる分析的・客観的証拠評価方法が妥当である。ゆえに、刑訴法318条は、分析的・客観的証拠評価方法を裁判官に要求していると解する。 3.それでは、本件における裁判所の判断は、自白調書の信用性について分析的・客観的に判断しているだろうか。本件における裁判所は、自白調書以外の他の証拠との関係や、秘密の暴露の有無等を一切検討せず、自白調書に記載されている内容の迫真性のみを考慮して結論を出している。したがって、刑訴法318条が求めている分析的・客観的証拠評価方法を採用せず、直感的・主観的証拠評価方法によっていることが明らかである。よって、このような証拠評価方法は違法である。 以上
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