4.コメントと解答例

●圧倒的多数の者が、「問題提起→あてはめ・結論」という形式をとっていた。「他人の占有」について万人が同じ解釈をとるのであれば別だが、実際にはそうでない。「他人が占有」(刑242)をどのような意味に解するかによって結論が変わるのである。
 したがって、当該紛争について自らが正義と考える結論をもたらす(つまり、窃盗罪で処罰すべきか否か)ためには、条文の「占有」をどのような意味に解するかが鍵となるのである。その点をきちんと書かず、一定の結論を前提として「あてはめ」だけ書いても、水かけ論になるだけだ。

●このように、「規範定立」の部分は法的意見の表明にあたり、とても重要な部分になる。 第1講を思い出してほしい。警察官職務執行法2条「停止させて」をどのように解釈するかによって結論ががらりと変わるのであった。そして、「停止させて」をどのように解釈するかは、人によって異なる。
 今の段階で法的意見表明の「形式」を十分にマスターしてほしい。

●以下に、優秀答案例を示す。テキストの解答例をベースにしつつも、規範定立のところに民法学習の成果をもりこんでいる。参考にしてほしい。

●優秀答案例(Oさんの答案。「全ての占有説」による。)
 *どの説に立つかによって点数が高くなったり低くなったりすることはない。
  解答「形式」のみに注目すること。

 1.期限付きで貸していた自動車をYが期限を過ぎても返さないので、XはYの承諾無く自動車を持ち帰った。これは窃盗罪にあたる行為であるか否かが争点となる。
 一見、刑法235条は「他人の財物」を窃取した者を窃盗罪で処罰と規定しているため、Xの「自分の財物」を取り戻す行為は窃盗罪にはならないと考えられる。しかし、本当にXが「自分の財物」を取り戻していれば問題にはならないのだが、自動車の占有権はXからYに移譲しているため(註1)、刑法242条により自動車はYの財物となる(註2)

 2.そこで、242条の「他人が占有」する状況がどのような状態を意味するのかが問題となる。他人の占有とは全ての占有を意味し、適法の占有とは解せない(註3)。適法の占有と解釈した場合、債務の不履行、遅滞が生じた際に、債権者が、裁判所に強制履行の請求することなく、私的に強制履行することを許しかねず、民法の法規範を逸脱し、人間関係や社会秩序に混乱をもたらす可能性があるという重要な問題を包含しているため採用することはできない。
 したがって、他人の占有とは、その占有が適法になされているか否かを問わず、「全ての占有」という状態を意味すると解すべきである。

 3.つまり、Xの行為は、「他人の占有する」財物を窃取したということになり、窃盗罪に該当する。
以上
(註1)「Yはこの自動車の占有地を有しているため」と書くのが正確だろう。
(註2)Yの財物となってしまうかは242条の解釈による。ここでは、「なりそうである」と書き、結論をぼかしておく。
(註3)やや唐突。全ての占有説と適法な占有説の2つがあることをまず客観的に紹介すべきだろう。そのうえで、適法な占有説を採用できない根拠に移っていくとスムーズ。