3.以下のように区分けされます。

【問題提起】
 1.司法警察職員は取調べを行うことが認められている(刑訴法198条1項)が、それは任意でなければならない。本件取調べが任意でなく、強制であったとすると、法律の定めた手続き(199条以下参照)によらない身体拘束を行ったものといえ、強制処分法定主義(憲法31条、刑訴法197条1項但書)に違反し、違法な処分であったということになる。そこで、本件取調べが強制処分であったか否か、そもそも刑訴法197条1項但書にいう「強制の処分」とは何を意味するものかが問題となる。

【規範定立】
 2.この点、強制処分とは重要な権利または利益を侵害する処分であるとの主張もある。確かに、真実発見の要請(刑訴法1条)をみたすためには、捜査機関の手を厳格に縛らず、「重要な」という絞りをかけて任意処分の範囲を拡大する必要性はあるともいえる。しかし、強制処分法定主義の趣旨は、罪刑法定主義と同様、許される処分を法律という形で明確に定めることにより市民の自由を保障する点にある。したがって、「重要な」権利侵害か否かという不明確な判断基準を立てることは、強制処分法定主義の趣旨に反し、相当とはいえない。そこで、このような絞りはかけず、強制処分とは権利・利益を侵害する処分であると解するのが妥当である。
 3.(1) それでは、本件取調べは強制処分であったといえるか。本件で問題となる権利・利益とは、行動の自由に他ならない(198条1項但書参照)。したがって、当該具体的状況に鑑み、社会通念上退去の自由が保障されていたか否かを判断すべきである。

 *3という番号が付されており、あてはめが始まったかのようにみえるが、具体的判断基準を定立しているわけだから、実質的にはここまでが規範定立

【あてはめ】
  (2) 本件では、取調べは午前8時40分から深夜2時にまでおよんでいる。このような長時間にわたる、かつ、深夜にまでおよぶ取調べが、一般的に被疑者の自由意志により行われるとは考え難い。これに加え、警察のほうから帰宅の意思を確認したり外部に連絡をとる機会を与えていないこと、常に監視状況に置かれていたこともあわせ考えると、本件取調べにおいて退去の自由は確保されていなかったとみるのが妥当である。もっともXのほうから帰宅したいとの明示の申し出はなされていないが、そもそもそのような申し出ができるような状況ではなかったというべきである。
 (3) よって、退去の自由が確保されておらず、権利・利益侵害があったといえる本件取調べは、実質的な逮捕に基づく強制処分であったといわざるをえない。

【結論】
 4.以上の検討により、本件取調べは法律の定めによらない身体拘束に基づくものとして違法である。